ハバナシガーとアメリカ人
「アメリカ人は対キューバ禁輸措置があるからハバナシガーは吸えないんだよ」
と、断言する人がいる。
それも一つの"正しい知識"であることに違いはないが、現実はそれとはほど遠いようだ。
1962年のキューバ危機以来、アメリカはキューバ製品の前面禁輸処置を断行してもうすぐ50年になる。
冷戦構造が崩壊し、当時の財界人も少なくなった今となっては禁輸解除の障害となるものはフィデル・カストロというヒールの存在だけであろう。
近年、頻繁に米議会で禁輸解除の議題が挙がっている現状は近い将来の変革を予感させるものがある。
世界一の葉巻消費国アメリカでは、シガーは一部のリッチやセレブリティーだけのものではない。
若者や中米系移民をはじめ、一般の国民にも広く愛されているが故に非常に多くの銘柄が流通している。
これだけのユーザーがいれば、多少のリスクは覚悟のうえでシガーの聖地とも言えるキューバシガーを手にしようとする者もいるだろう。
事実、オンラインショップでは大々的にアメリカへの発送を明記している店がそれなりに存在している。
ご丁寧にボックスやシガーリングまで外して送ることを謳っている店もある。
これらの店は多くの場合発送地をサイト内に明記していないが、まず欧州か中米からである。
つまりごく一般的なハバナの流通ルートから来ているものでとりたてて特別なものではない。
※テロ対策での通関強化によりシカゴで摘発されたハバナシガーの記事
ブログのシガーレビューやYoutubeの動画でハバナシガーをレポしているアメリカ人が珍しくないのは、単に国外で吸ったからというケースだけでなく、比較的簡単に密輸できるという事情がある。
それが違法であっても、大麻の少量所持のように摘発対象でなければ意外にハードルは低いものだ。
城アラキ氏の著書に、ハバナシガーの最大の消費地はアメリカであると書かれていた。
ソースについては存じ上げないが、それを一番意識しているのは当のHabanos S.A.なのかもしれない。
伝統的な多くのハバナシガーが続々廃止銘柄に加えられていくのに対し、新しく発売されるVitolaはファットでマッチョなGran RobustoやRobusto Extra、Double Robustoのような今までのハバノスにはあり得なかった、アメリカ市場でしかお見かけしないようなものばかりだ。
またモンテクリストOpenラインのような、ハバナファンの酷評を掻っ攫ったドミニカライクな製品まで展開した。
世界的な禁煙の時流でトラディショナルなハバナを愛した国々の消費は低迷する一方、アメリカの葉巻市場は拡大傾向にある。この巨大なマーケットが"Open"されてしまった暁には、価格、質、流通量で大きなダメージを被ることは想像に難くない。
今やハバノスもインペリアルタバコ傘下の子会社に過ぎない。市場原理を追求しプレミアム路線を突き進む現状に禁輸解消という大きな"革命"が起これば、我々が"キューバ危機"を体験する日が来るのかもしれない。